ハタハタ

ハタハタ。

ハタハタという魚を、私は長野県にいたときは知らなかった。もしかしてお店でもあったのかもしれないけれど、とりあえず家の食卓に並ぶことはなかった。

 

金沢にきて、ハタハタが売られているのを見たとき、少しびっくりした。長さ10センチくらいの小魚が大量に(15匹くらい)一つのパックに詰められている。そんなにたくさん入っているのに値段が安い。

 

金沢にきたとき、最初に付き添いで来てくれた母も感動したらしく、それを買い求め、よく分からない煮物にして保存食用に置いていってくれた。でも大量の、魚をおろしたあとに出るゴミの量と、一人で食べきれない冷蔵庫の魚たちにちょっと気分が暗くなり、それ以来、一人暮らしのアパートでその魚に手を出すことは無かった。

 

今の家の近くには、金沢の観光名所のひとつで、「金沢市民の台所」と呼ばれている大きな市場がある。市場というから、どんなに安いかと思いきや、そうでもない。スーパーで買った方が安いような気がするものも多い。でも高い理由は、ただ単価が高いというよりも、もしかしたら、ひとつを大量に買わなければならないからかもしれない。どのお店にも「一盛り・・・円」という札で値段が書いてある。

 

「それをください」と言ったら最後、ひとつのカゴに山盛りになっている大量の魚やその切り身を一つのビニール袋に詰めてくれるのである。ハタハタにいたっては、25匹~30匹くらい入っている気がする。でもハタハタについている値段はここでもあまり高くない。カニやらカキやらブリが、私には手の届かない値段で売られている中、手を出せそうな魚はこれぐらいである。

 

よし、これを買おう。だだだだっと魚がビニール袋に入れられる姿を目にしてなんだか、ここに今住んでいるんだな、という気がしてきた。観光できて、ハタハタを買う人はあまりいないかもしれない。観光でもお金持ちでもない私がここで買える魚はこれなんだな、と思うと、ずっと見ないふりしてきたハタハタに親近感がわいてきた。